魔王 |
「メーヒェン国王よ。いずれこの国に、ヘンリエッタ・グリムという娘が訪れるだろう。
そのときは捕え、この俺に献上しろ。ただし、たとえ髪の毛一筋でも傷をつけることは許さない。あれは、俺のもの。この俺の手の内で愛でられ、永遠の幸福を与えられるべき愛しい妹だ」 |
メーヒェン国王 |
「は、ではカスパル」 |
カスパル |
「兵たちに通達するために、何か姿の分かるもの、絵などがございますか?可能であればお貸し頂きたいのですが」 |
魔王 |
(…確か、ルートヴィッヒの描いたスケッチがあったな。五年前の物だが、それで…)
「ない。たとえあったとしても渡すつもりもない」 |
カスパル |
「は、はい!では、特徴などをお教え頂けますか?」 |
魔王 |
「……………」
(何だ、今のは…?まさか、いやそんなはずはあるまい) |
メーヒェン国王 |
「魔王様、いかがなされましたか?」 |
魔王 |
(楽園の乙女の姿、か…
俺自身は未だその姿を見たことはないが…ヴィルヘルムならば、今の姿を知っているはずだな。奴を呼ぶか)
「赤い髪と、同じ色の瞳をしている」 |
カスパル |
「赤毛に、赤い目…年の頃は?」 |
魔王 |
「最後にあったのが十のときで、五年前のことだ」
(これは…一体?) |
カスパル |
「十五歳、と。他に特徴はございますか?」 |
魔王 |
「髪は多少癖があって、緩く波打っている」
(ヤーコプ・グリムの記憶、か…?) |
カスパル |
「成程…では、赤い癖毛の赤目の十五歳ぐらいの少女を見かけ次第、捕えるよう兵に通達しておきましょう」 |
魔王 |
「……待て」
(またか?) |
カスパル |
「は、何でしょうか…ああ、丁重に扱わせて頂きますので、どうかご安心を」 |
魔王 |
「その程度の言葉では、到底あの娘を表すには足りない。
まず髪と瞳だが、ただの赤ではない。まるで夕日のように暖かな、茜色だ。だからいつも俺は夕日が沈むのを見ると、あの娘のことが自然に胸に浮かぶ。旅の空の下でもいつでも思い出せた。
さらに髪は柔らかいが癖が多くて、いつも梳くのが一苦労だった。だが俺が梳いてやれば、あの娘はとても嬉しそうにしたし、まるで絹のような光沢を放つんだ。それが嬉しくて、お転婆をしては髪を絡ませるあの娘の髪を何度も梳いてやっていた。
瞳は、丸く大きく、まるで吸い込まれそうなほど深く澄んでいる。もしも涙を宿すようなことがあれば、それは朝露のように輝き、同時にひどく心を痛ませるんだ。純粋なあの娘はとてもささやかな、そして優しい理由で泣くのだから。
何より笑顔が愛らしく、それだけで家の中を明るく照らしてくれる、太陽のような娘だ。俺たち家族は、いつもその笑顔に元気をもらって、救われていた。
そう、それに声も小鳥のようで、兄さん、と呼ばれれば振り向かずにはいられない、可愛い響きを持っていて」
(俺は、何を口走っている……!?) |
カスパル |
「っは、はあ…」 |
メーヒェン国王 |
「ま、魔王様?」 |
魔王 |
「ああ、そういえば俺があげた帽子をとても気に入ってくれていたな…
家の中でも被ろうとするものだから、俺は内心嬉しかったが、そこはやはり兄として注意しなければならなかった。
あの娘は素直に聞いてくれたが…ふふ、しばらくの間、晴れた日にはピクニックに行こう、と言って聞かなかった」
(……まさかっ、ヤーコプ・グリムか、馬鹿なっ) |
カスパル |
「も、申し訳ございません。後半の部分を書きもらしてしまい…」 |
魔王 |
「……………………」
(黙れ!………………ふ、ようやく静かになったか) |
カスパル |
「よろしければ、もう一度お願いしたいのですが」 |
魔王 |
(ふん、ヤーコプであった頃の記憶など、俺には関係ない。
そもそも途中から、特徴など関係のない、ただの追憶になっていたではないか。
もはや、下らぬことに口を開く気はない)
「仕方ないな…では、(中略)。
さらにだな、あの娘はオニオンが苦手で」 |